多頭飼育崩壊出身、末期がんのテイラー

不衛生な狭いケージに入れられて

テイラー(メス、10歳)
2023年2月、板橋区内の多頭飼育崩壊現場から保護した猫です。

現場には全部で猫30頭+大型のオウムが1羽。飼い主は正確な頭数を把握できていませんでした。
当初「20頭はいないくらい」ということで話を聞いていたのですが、現場に視察に入った時点で明らかに申告より多い頭数だということはすぐわかりました。そして、元々繁殖目的で飼育されていたため、16歳のメス猫1頭を除いて全頭未避妊・未去勢。介入した時には29頭が皆発情し、狂おしい雄叫びを上げ続けていました。

30頭を飼育するには狭すぎる室内は荒れ放題
30頭を飼育するには狭すぎる室内は荒れ放題

二段積みの狭いケージ。心地よいスペースは皆無

オス8頭は全頭、2階の猫部屋のケージに1頭ずつ入れられ、その未去勢のオスに囲まれる形でテイラーも同じ部屋に暮らしていました。テイラーの入っていたのは犬用の高さのない1段ケージで、床は底が抜けており、排泄物や食べこぼしがケージ内の敷物に染み付いた不衛生な状態。そんな環境で最低でも2年ほどは飼育されていたようです。テイラーは5歳くらいまで繁殖のために出産を繰り返していたのですが、退役後も避妊手術はしてもらっていませんでした。

8頭の発情したオスに囲まれてずっと発情していたテイラー
どうしてもっと早く猫を減らしたり不妊手術をしたりの努力をしなかったのか。残念でなりません。


ごはんもお水も空っぽのケージ。排泄物で山盛りのトイレは長いこと掃除をした形跡はありません。防護服とマスクをしてもアンモニアで目がヒリヒリし、鼻の中には異臭がいつまでも消えずに残るほどでした。今にも壊れそうなケージに入っていたオスたちの中には、結膜炎や血尿の猫もおり、体調や環境の悪いケージの猫から順次引上げを開始。テイラーも早々に引き上げました。

ところが、協力動物病院でテイラーの避妊手術などの処置をお願いしたところ、術前検査で乳腺がんの可能性が高いとの見解が下されました。やっとあの環境から脱出できたのに。そんな非情なことってある?にわか信じられませんでした。

「相当放置しましたね・・・」

獣医師からの最初のひとことで、どれだけの状態かがわかりました。
病巣はかなり進行していて、触診でも大きなでこぼこがたくさんあると…。レントゲンの結果は肺も真っ白で、乳腺がんはおそらく肺へも転移しているだろうと…。細胞診は行わずとも、十中八九末期の乳腺がん、余命は長くないだろうという診断でした…。
予定していた避妊手術はもちろんできるわけもなく、今後テイラーをどうするか頭を抱えました。

諦めきれずセカンドオピニオンへ

一縷の望みをかけ、二次診療のできる大きな病院へ転院。似た症状を起こす他の病気の治療を行ってみることにしました。肺への転移は実は肺炎かもしれない!と、まずは抗生剤を2週間投与。これで上向きになれば肺炎だということになります。が、結果は変わりませんでした…。

次に肺真菌症かもしれない!と、抗真菌薬を14日間投与。しかし4月中旬の診察でも投与した薬の効果が見て取れないこと、明らかに呼吸が早くなっていることで、乳腺がんと肺への転移を決定づけることになりました。

両肺は真っ白で、かなり進行しているため、外科手術はもうできない段階。ですが、少しでも呼吸が楽になればという願いを込め、分子標的薬を14日間投与することにしました。4月20日現在、投薬を続けています。肺の状態が非常に悪いためリスクが高すぎて麻酔をかけることができず、避妊手術はもちろんのこと、一切の外科治療ができません。そのため保育園での発情鳴き、マーキングと思われるあちこちへの粗相があります。

このモヤモヤが肺への転移とのこと・・・

呼吸は常に全力疾走の後のようです

それでもハッピーなのはナゼ?

テイラー本ニャンはとても明るくハッピーな猫で、崩壊現場で出会ったあの日からいつもゴロゴロと機嫌良くしています。ただ常に肩で息をするような呼吸をしており、息苦しさはあると思います。
乳腺がんも、素人が触ってもわかるほど、お腹の表面にたくさんの異物があります。こんなに悪化するまで誰にも気づかれなかったことは、どれだけ長きにわたり、飼育放棄に近い環境だったかを物語っています。今のところ痛みはなさそうなのが、本当に救いです・・・。

床置きの不衛生な1段ケージから、3月初旬に保育園(店舗以外の預かり先の総称です)に移動。そこで保育園の子どもスタッフと運命の出会いを果たします。きっとニンゲンの子どもなんて出会ったことがなかったと思うのですが、今では子どもスタッフに四六時中べったり。彼女の背中で日向ぼっこをしながら目を細めてゴロゴロとくつろぐのが至福のようです。

病巣に対して外科的治療ができない歯がゆさはありますが、せめてこのまま、環境を変えずに最期まで楽しく過ごしてもらおうと思っています。それだけでもテイラーにとっては良い時間だと思いたいです。幸い、同じ多頭飼育崩壊現場の他の猫たちに重篤な疾病や感染症はほぼなく、みんな元気です。それがかえってテイラーに全てを背負わせてしまった、そんな気持ちにさせられます。

間もなく酸素室が必要になると思います。それまでは、これまで得られなかった、家庭的な環境の中で、のんびりマイペースに過ごさせたいです。

(文責/またたび保育園ヒト園長)

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テイラーの治療費、酸素室のレンタル費用、テイラーの家族30頭の医療費が次々と財政を圧迫しています。昨年のFIPパンデミックによる治療費もまだ600万円分が未払いです(ねこけん動物病院様のご厚意に甘えて、ある時払いにさせてもらっています)。人件費は自分たちの稼ぎでどうにかギリギリ賄えていますが、医療費の部分がとても厳しい状況です。どうか応援よろしくお願いいたします!

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